| Ganko: |
料理人の方々との交流もたくさんおありなんでしょうね。 |
| 神: |
そうですね。日本全国の名前の知れた料理人さんたちとは、それなりに面識があります。昨年(平成十五年)も、日本料理の二代目三代目が集まった芽生(めばえ)会っていう会の結成五十周年記念大会がありまして、司会をやらせていただきました。中でも〈つきじ田村〉の初代の田村平治さんには、ずいぶんと可愛がっていただきました。 |
| Ganko: |
田村平治さんといったら、日本料理界の伝説的人物のお一人ですよね。 |
| 神: |
大旦那の部屋は〈つきじ田村〉の六階にあって、そこでは旦那も若旦那も飯なんか食わせてもらえないんですよ。でも、私は上がらせていただいて、女将さんと三人で食べさせていただいていました。 |
| Ganko: |
どうしてそんな深い仲になったんですか。 |
| 神: |
〈つきじ田村〉には何度か取材させていただいていたんですが、三回目に取材に行ったのが、たまたま賄いを食べているときだったんです。〈つきじ田村〉では、毎週金曜日、いちばん若いのがカレーライスつくるんです。残り物の材料でどういうカレーをつくるかによって、その人間がどれだけ勉強してるかがわかってくるわけです。そのカレーを食べさせていただいた。で、そのあと鳥取に取材に行ったときに、すごくおいしいらっきょうと出会った。そのときに「あ、これ、ひょっとすると田村の賄いのカレーに合うかもしれないな」と思って、一袋買って、届けたんですよ。 |
| Ganko: |
そうしたら? |
| 神: |
そしたら、大旦那が驚いて。「いや、いままでこういう人間はいなかった」と言ってくださった。大旦那がそう言ったら、旦那、若旦那というのは「えっ」と思うじゃないですか。ましてや、日本の料理人でいちばん最初に天皇から勲章もらった人ですから。そういうことがあって、「あいつは、並みの芸能人じゃねえな」と気に入っていただいたんです。それ以来、裏口から入って「お、今日の賄い、いいなぁ」「神さん、ご飯すんでる?」「まだだけど」「食べてく?」「はいはいはい」そんな感じのお付き合いをさせてもらっています。いまでも一度も表から入ったことないんですから。これは語り草になっちゃっているんですけど、「裏からくるのは神さんだけだよね、裏からきたらお金とれないよねぇ」「すいません」って。 |
| Ganko: |
(笑)。でも、日本料理を代表するような料理人とお知り合いになれてよかったですね。 |
| 神: |
ほんとですね。そうやってお付き合いさせてもらって、料理に関するいろんなことを教わりましたね。 |
| Ganko: |
一流の料理人というのはなにが違うんでしょう。 |
| 神: |
田村平治さんというのは、「大根一本、どこも無駄にすることはない」と言うんですよ。いちばん最初に取材に行ったとき、調理場に細い紐が張ってあって、そこにへんなものがぶら下がっている。 |
| Ganko: |
ひょっとして、かつらむきにした大根? |
| 神: |
そう、あたり。それがまたいろんな料理に変わるんです。葉っぱから尻尾まで、捨てるところが、なんにもない。全国いろんな料理屋に行ってますが、生ゴミがいちばんでないのが〈つきじ田村〉でしたね。大体生ゴミがたくさん出るお店は、三年たたないうちにつぶれます。 |
| Ganko: |
無駄使いしているわけですからね。 |
| 神: |
すごいなぁと思いましたね。じつは、この大根話には後日談があるんです。 |
| Ganko: |
なんですか? |
| 神: |
宮崎に〈杉の子〉っていう郷土料理の店があるんですよ。立派な店構えで、しかも自社ビルなんですが、あるとき親父さんに聞いたんですね。「よく建てましたよねぇ」って。「神さん、このビルは大根で建てたんですよ」って、同じこと言うんですよ「え、大根?ひょっとして、皮干してる?」「なんで知ってんの?」「いやー、似たようなお店があって」(笑)それからその社長とは、もう、ポン友みたいな感じで付き合っています。 |
| Ganko: |
面白い!ほかにも印象に残っている方はいらっしゃいます? |
| 神: |
そうですね。あなたは、鮑(あわび)は好きですか? |
| Ganko: |
好きです。 |
| 神: |
では、日本に鮑料理の専門店が何軒あるか知ってます? |
| Ganko: |
いえ。 |
| 神: |
三軒。北海道と福岡、あとは伊勢にあります。 |
| Ganko: |
伊勢は、伊勢志摩観光ホテルですよね。北海道と福岡は知りませんでした。 |
| 神: |
そう、日本の両極端にある。北海道の鮑料理専門店は、札幌にあります。〈あわびの源太〉というお店です。これが日本で初めての鮑専門店。北海道の蝦夷鮑、これはものすごく小さいです。水が寒いところですから。そのかわりいちばん旨いといわれている。 |
| Ganko: |
なぜ? |
| 神: |
昆布が旨いから。鮑の餌が昆布ですから。で、ここのご主人は、元々銀行員。でも、この蝦夷鮑に会って、料理人になっちゃった。研究に研究を重ねて、もう三十年。 |
| Ganko: |
へー。福岡の方は? |
| 神: |
これがまた面白い。そのことに伝え聞いた男が、「それじゃ、玄海灘の鮑でやったろうじゃないか」ってオープンしたのが、福岡の〈あわび亭〉。 |
| Ganko: |
そうなんですか。 |
| 神: |
こちらのお店は、皿に全部点字が打ってある。 |
| Ganko: |
どうしてですか? |
| 神: |
ご主人、目がお悪くなってきているんですね。自分の目が悪くなって、同じ境遇の人の気持ちがわかったんでしょうね。それで、お皿に「ようこそいらっしゃいました。この鮑料理はこれこれこうやってお食べください」というメッセージが書かれている。このことに気が付いたときは、感動しましたね。 |
| Ganko: |
いいお話ですねぇ。 |
| 神: |
不思議でしょう。なんでそんなに惚れ込んじゃったの?という。こんな話がたくさんあります。 |
| Ganko: |
そんなに知識が豊富ですと、本を書きませんとか言われませんか? |
| 神: |
お誘いは何度もありましたが、お断りしています。通り一遍のことを書いたところで、二番煎じですし、もし書くにしても、もう一度全部回って、私が食べたときと変わっていないかどうかを確かめないと…。それに、私の場合は取材を通して入り込んじゃってるから。上っ面の付き合いじゃないんで、言えない部分も多いんですね。「神ちゃんだから」と話していただいたことは、やっぱり書けないでしょう。 |