さて、久しぶりの体験道である。今回のテーマは、日本人に馴染みの深い豆腐である。そして豆腐といえば、東京・根岸のあの店を抜きには語れない。そう、〈笹乃雪〉である。
元禄四年、初代玉屋忠兵衛が上野輪王寺の宮様(百十一代後西天皇の親王)のお供をして京より江戸へ出て、根岸に豆腐茶屋を開いて以来、三百十余年。江戸の文化・文政年間、根岸界隈に数多く暮らす文人墨客に愛された名残は、店内の壁に飾られた八十余点の書画からも窺い知ることができる。もちろん、名声だけで生きてこられるほど世の中は甘くない。厳選大豆を地下六十メートルから汲み上げた清らかな井戸水に浸し、当時の製法そのままに、にがりのみを使用した昔ながらの味わいは、京都・奈良の名高い大僧正たちが「これぞ、本物の豆腐である」とわざわざ足を運ぶほどである。体験道では、まずこの〈笹乃雪〉の豆富料理をぞんぶんに味わっていただく。
しかも、今回の体験道はこれだけではない。根岸といえば、落語に縁のある地。故林家三平師匠の住まいは〈笹乃雪〉のすぐそばにあり、十代目の奥村多市郎さんとは旧知の仲である。そこで今回、奥村さんの計らいにより七代目柳亭燕路師匠にお声掛けいただき、会席の前に一席もうけていただけることとなった。「落語というのは元々はお座敷芸ですからね。本来二十人くらいがちょうどよい。寄席で見るのとは違って、噺家さんもじつに生き生きとして見える。真打の噺をこんなふうに聞ける機会はまずないでしょう。いや、贅沢ですな」とおっしゃる奥村さんご自身による根岸界隈の貴重なお話も聞けることであろう。これまた贅沢なことである。
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