酉の市と切山椒(きりざんしょう)
その昔、酉の市の縁起物といえば、熊手、八頭(芋)、そして黄金餅であった。八頭については、別の項で書いた。
黄金餅は粟餅(あわもち)の別名といわれており、餅米5分に、粟5分の割合にして搗(つ)いた黄色い餅のこと。この黄色が金色の小判に良く似ていたことから、金持ちになるようにとの縁起で売られていたというが、すでに黄金餅を商う店は絶えてない。そのかわりに売られているのが、切山椒である。
切山椒とは、上新粉に砂糖と山椒の粉を加えて搗き、薄く延ばして短冊形に切った餅菓子である。山椒は日本最古の香辛料で、葉、花、実、幹、樹皮に至るまで利用することができ、さらには材質が非常に硬いのですりこぎや杖としても利用されている。このように捨てるところがなくすべて利用できる(有りがたい)との縁起から商われるようになった。また江戸時代、酉の市は正月を迎える最初の祭りであったことから、年の瀬を告げ、正月用の餅菓子である切山椒が売られることになったのであろう。

「きりざんしょうは、なつかしい、東京の正月のたべものだ。・・・・・・・・・さんしょうのにおいと味とが、子どものたべものにはない、一種の刺激があって、それが今に、むかしを思い出させる」(池田弥三郎『私の食物誌』)

現在、鷲神社境内で切山椒を商う店は鳥居をくぐってすぐ右手にある〈沼崎〉という一軒のみとなったが、境内外では数軒が商っている。