| どじょうは、夏の季語。入れ込みの座敷に膝を突き合わせて、あつあつのどじょう鍋をふうふうは、江戸の夏の風物詩でした。幸いなことに、東京にはいまも昔の風情と味を守っている老舗のどじょう屋さんが何軒かあります。そんな中から、今回わたくしたちは深川高橋(たかばし)にある〈伊せ喜〉を尋ねました。 |
|
深川から歩いて帰るときは、永代橋の手前を北に曲がり、仙台掘をこえ、小名木川へ架かる高橋をわたって本所へ出るわけだが、その高橋をわたった右側に、何やら芝居の舞台に出て来るような瓦屋根の、総格子の表構えの店があるのに気づいた。 見ると、これが〔どぜう屋〕である。
と、池波正太郎先生の著書『散歩のときに何か食べたくなって』に紹介されているままの風情を残す〈伊せ喜〉。創業はおよそ百二十年前。現在の建物は、敗戦後昭和二十一年二月十一日に復興したものだそうです。 ご主人のお話によると、「いやー、ただそのまま残しているだけで、たいしたことありません。最近ではこの周りも新しい建物が増えて、この前の地震のときはうちだけ崩れるのではないかと心配しました。今度近くに二十階建てぐらいのビルができるので、いよいよ日陰になってしまうかなぁ」。ちなみに、ご主人は眼鏡の奥の目がやさしく、丁寧で、とても謙虚な方でした。 暖簾は、夏は白麻に墨で“どぜう”。冬は紺に白抜きで“どぜう”となります。 |
|
 座敷の仕切りも季節感がでるように、夏は風通しの良い葦戸(あし)。冬は温かみのある襖(ふすま)。天井は天然の屋久杉を使用しているそうですが、「エアコンを入れてから、ひびが入ってしまってねぇ」(ご主人)欄間の中央に丸く彫られているのは、家紋。 |
|
べんがら茶の団扇は、毎年〈伊場仙〉に頼んで作る本格もの。今年の夏は一万本注文したそうです。この団扇は、鍋の熱さをゆるめてくれると同時に、来店された方へのお土産となります。なんとも粋ですねぇ。
|
|
 高木先生がなにやら書いておいりますが、実は今回、この団扇に先生自作の句を入れていただき、会員の方にプレゼントすることにしました。限定五本!
|
|
 “まる”鍋。よく使い込まれた底の厚い鉄鍋の中に、丸々と太ったどじょうがお行儀よく並んでいます。すでにじっくりと丁寧な下ごしらえがしてあり、そのままでも食べられそう。火にかけるとすぐにぐらぐらとしてくるので薬味の葱をたっぷりとかけ、煮え上がるか上がらぬかのタイミングで食べます。はふはふ。煮すぎるとぼろぼろになってしまうので、気をつけること。はふはふ。臭みもまったくなく、骨も気になりません。よほど丁寧に手をかけているのでしょうね。お好みで山椒か七味を。七味はたぶん〈薬研堀〉かと思いますが、どじょうに合うように調合を変えてあるようです。「ほら、もっと食べないと。一人で、二人前はいけるでしょう」(高木先生)
|
|
こちらは、“ぬき”鍋。どじょうの骨を抜いて開いたもので、どじょうのすき焼きという風ですね。焼き豆腐と笹がきごぼうも入れて食べます。
「ごぼうはたっぷりの方がおいしいのよね」(高木先生)
「すいませーん、ごぼうおねがいします」(タイちゃん)
「はい、はーい」(お店の方)
「ごはんもいきましょうよ」(わたくし)
「すいませーん、ごはんも」(タイちゃん)
「はい、はい、はい」(お店の方)
濃い味付けはまさに江戸風。“まる”はちょっという方も、これならきっとおいしくいただけます。わたくしもどちらかといえば、こちらが好みですね。
|
|
おなじみの柳川鍋。残念ながら、わたくしの口には入らず。 |
|
鯉のあらいも、〈伊せ喜〉の名物。味噌だれでいただきます。どじょうと同じく、淡水魚の臭みはまったくありません。透明感のある身と、しこしことした食感は鯛に似ています。京都〈なかひがし〉の中東久雄さんが、「魚の中では、鯉が王様だと思いますよ」とおっしゃっていたことを思い出しました。
「うーん、もう、おなかがいっぱい」(高木先生以外、全員)
|
|
「どじょうで暑気払いをしませんか?」そんな高木泉先生の提案で決まった、今回の体験記。当日はあいにくの台風日和となりましたが、決行してよかったです。 東京がまだ美しい山野であふれていたころ、どじょうはそこいら中で捕れ、どじょう屋さんもたくさんあったと聞きます。それが都市開発とともに一軒、また一軒と消え、いまは希少価値に。庶民のものだったどじょう屋さんも、結構敷居が高くなっているようです。 〈伊せ喜〉にしても、浅草の〈駒形どぜう〉や〈飯田屋〉にしても、“昔ながら”を守っていくには大変なご苦労があるはず。その矜持がひょっとして「入りにくい」雰囲気をつくっているのかもしれないなぁ…。でも、それはそれ。暖簾をくぐれば、そこにはいまでも庶民的で気さくな空間が広がっています。 今年の夏、暑さはまだまだ続きそうです。どうですか?下町に出かけたおり“どぜう”の文字を見かけたら、暑気払いなぞ。
どぜう 伊せ喜 http://www.伊せ喜.com/
東京都江東区高橋2-5 電話03-3631-0005
駒形どぜう http://www.dozeu.co.jp/
東京都台東区駒形1-7-12 電話03-3842-4001(代)
飯田屋 http://www.asakusa.gr.jp/nakama/iidaya/01.html
台東区西浅草3-3-2 電話03-3843-0881
|